First Event

サイカイ

CONTINUE

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『君が好きだった』
アツいアツいイタイイタイイタイ
『貴方が好きだった』
コロスコロスイキタイイキタイ

だけど結末というものは様々な可能性が収縮し、結して、終わるもの。
他の道はなかったのか?
あの時こうしていたら?

過去はそんな、愚者を嘲笑う。
時間は戻らない。

どこにも行けない。
血と鎖と死体が屍が覆い尽くすここには、希望なんてない。

『******** **** ************』
迫る死、追い込む死、殺すこと、殺されること。
終わりへと向かう選べない選択がつきまとう。
求めた物に手は届かず。
求めた者は手から離れ。
求めたモノは手に入らないと知る。




だからこれはせめてもの抵抗。
このくそったれなフィナーレを描き示す者への。
失くす未来の可能性を少しでもかき集める為に。

『だから・・・・・』
『殺すよ』『殺した』


ドッペル殺し-Doppel Killer-
The Killing of old myself

Written by 鷹人



目を覚ます。
冷や汗びっしょりの額や首をハンカチで拭いながら、自分のことを確認する。

この街に似合わない、90年代の陽気なジャズに大雨が天窓を叩く音が店内に鳴り響く。
暖色の蛍光灯が店内にずらりと並べられたリキュール、カクテルグラスを照らし出す。

ここは、BAR「LIST」であり、自分はバーテンダーとしてバイト中であり、悪夢のせいで、高いカクテルグラスを割る一歩手前であったということ。
この街、神名町で大学浪人を始めてもう1年。

東京での暮らしのための貯金をとうに底をつき、バイトでの日銭暮らしの自分にそれを弁償するだけの財力余力はないこと。
もうすぐ模試だから早く帰って勉強しないといけないということ。

グラスの雫を 拭き、棚に戻しながら自分の名を確認する。

天見 真
(アマミ マコト)
19歳

趣味、ゲーム・漫画
好きな食べ物、カレー・ラーメン
嫌いなもの、嫌味な奴・両親からの電話
特技、特になし

確認終了。
自分は今日も自分であった。

爽やかな(少なくとも自身ではそう思っているミディアムヘア。
この街に少しでも融け込もうと、金と茶の間くらいに染めあげた前髪を掻き分け、視界を良好にする。

初めは、照れくさくて不慣れで着こなせなかった蝶ネクタイとベストを締め直し。
白いワイシャツにシミがないか、ヨレがないか確認する。

自己確認と、事務確認を終えたところで自身に課せられた業務を粛々とこなしながら、最近いつも見る悪夢を振り払う。

内容はあまり覚えていない。
ただただ押し寄せる痛み、恐怖。
そして何より辛く、キシキシと自分を蝕む、死ぬほどの後悔が押し寄せてくる夢。

頭の奥に根付く痛みに目元を押さえながら、一呼吸整え、接客スマイルを作り出す。

働きすぎかな、、、、


ふと、吹き荒れる大雨が叩くBARの天窓から差し込む月の光に目を向ける。

この街はとても刺激的だ。
仕事、遊び、観光、デート、揉め事。

様々な目的を持った人々が24時間街を埋め尽くし、ビルや飲食店、ファッション店、様々なネオンが街を延延と輝かせる。
巨大なナイトクラブでは毎晩、酒と色欲、金が入り混じり、人々はその快楽に酔いしれる。

自分が育った片田舎とは真逆の世界。

自分には分不相応な街。

そんな輝く街の片隅でグラスを磨きながら、灰色の生活を送っている。

別に何か高望みをしているわけではない。
だけど、訪れる客が口々に話す成功談、街での華やかな体験談。

金も地位もこれといった特技も持ち合わせていない自分には、決して訪れないのだろう話。
劣等感と羨望が入り混じり、たまにどうしようもなく落ち込む時がある。

そんな時は彼女のことを想う。

彼女との出会いはまるでドラマのようで、マンガのように劇的で、唐突な日常の変化だった。
ただ、そのドラマはいわゆる典型とは真逆の立場であったが。

「テメェなに見てんだぁぁ!!」
「・・・・いえ、自分は別に・・・」
「別にってなんだよ!!テメェ今俺らにガン飛ばして ただろうがよぉおおお!!!」

カラフルでファンタスティックな髪型に目立つスカルの刺青。
あまりにもこの街を体現している彼らの刺激的な風貌を、バイトで客にカクテルを作りながら、ジロジロと見ていたのは紛れもない事実なので、ガンを飛ばしていたと言われれば彼らの感覚的には間違いではないのであろう。


ただ、別に敵意や悪意があったわけではなく、興味ゆえの行動だったということを彼らに言っても感情を逆なでするだけだということが分かるくらいには、世間を、この街に来てから学んでいたので、おとなしく彼らにいたぶられることにした。

「うぉらぁぁ!!!!」
「ぐっ!!!」

容赦なくバーカウンターからホールの床に投げ出された自分は、これまた容赦な く顔や腹を蹴り上げられる。

家へと帰る街角で、よくこういった風景を目にすることはあったが、いざ自分が体験することになるとは考えていなかった。
自分もこの刺激的な街の一員になったということなのだろうか。

「・・・・・うぅう」

痛みでだんだん意識がぼんやりとしてきた。

「おい、、こいつ連れてくぞ」

リーダー格の男が仲間に指示する。
「!!??」

流石に冷や汗をかく。
この街で、こういった不良に、どこかに連れて行かれるということは、=死というのが自分の中での常識だったからだ。

「や・・やめ」

そんな時に彼女は自分の世界へやってきた。

「そこまで」

長く煌びやかな黒い髪をたなびかせ。
白く長く透き通った白い手 足が自分の前で広がっていく。
微かに見える、誰をも魅了しそうな美しい顔立ちと強い意志を持った瞳。

彼女は、子供の虐めを見かねた小学生の先生のように
屈強な不良達の前に立ちはだかり、自分を、その華奢な背で守っていた。

雨地 雛(アマチ ヒナ)とは、そんな女性だったのだ。


「ふざけっ!!!!・・・」
輩どもは構わず暴力を行使しようとして、彼女の顔をよく見て踏みとどまる。

「おい・・・この女・・・」
「あぁ・・・海さんの・・・」

輩どもが急にあとずさっていく、、

「ちっ!次はないからな!!!!」

そう言い残し店を出て行く輩どもを背に、彼女は自分に振り向き、そっと手を伸ばす。

「大丈夫?」
彼女が自分に向けてくれ た笑み。
その視線は、何よりも温かく、何よりも純粋で、そして綺麗だった。

僕は彼女に作りかけだったカクテルを完成させるとサービスでプレゼントした。
「おいしいね」と彼女は呑み干し、「また来るねっ」と店をあとにした。

その時。
彼女の笑顔と瞳を見た時が、自分が彼女に恋をした瞬間だったのは間違いない。


ヒナは、その後もよく店に来るようになった。

いつもバーカウンターの向かって右から4席目に座り『アラウンド・ザ・ワールド』世界一周を意味する、ドライ・ジンとミントとパイナップルを組み合わせた、グリーンにきらめくカクテルを好んでオーダーした。

シェイカーを振りながら、森や川しかない自分の故郷の話。
勉学とバイトに明け暮れる毎 日の話。

この街でも一目置かれる彼女が、そんな刺激とは程遠い話を、面白い!もっと聞かせて!と、まるで少女のような笑みを自分に向けてくれた。

それがとても嬉しくて、その時間がとても眩くて、自分の灰色の世界の中に一つ。
この小さなBARという世界が少しづつ鮮やかに輝いていった。

1日の間、終電前の30~40分。

彼女と過ごす時間だけが日々の記憶に蓄積されていき、自分を染め上げていく。
叶わない恋に。

彼女には恋人がいた。

岬 海(ミサキ カイ)

この街で一番大きなナイト・イベントを興行し、そこで得た資金や様々な人脈から、いくつもの会社を経営。
この街で彼のことを知らないものはおらず、大人たちも一目置く彼には、多くの人々 がいつも周りに集まっていた。

自分とほとんど変わらない年齢の、自分とは正反対の青年。

岬 海に手を引かれながら、この街の輝くネオンへと消えていくヒナを、薄暗い路地裏のBARから見送る。
自分が決して届かないであろう世界に消えていく彼女を・・・・


(最近BARに来ないな・・・)

天窓の月の光から視線を手元に戻し、濡れたグラスをクロスで拭く。
ヒナとはもうしばらく会っていない。

元々、同じ街にいても、住んでいる世界が違う彼女。
もう自分のことなど忘れてしまったのだろうか・・・

小さなBARの変わらない喧騒の中、久しく作っていないカクテルの名を想い起こす。
『アラウンド・ザ・ワールド』
いつまでこの灰色の世界で・・・

「・・ ・・・よし!」

こんな時は、気分を切り替える為に息抜きでもしよう。

業務をこなすフリをしながら視線を確認する。
視線を確認すると言っても、周りをキョロキョロ見渡す訳ではない。

自分の目線は手元のグラスを拭く手を見たまま。

自分に向けられている視線を確認する。
肌で感じとる。

誰も見ていない。
視界には入っているのかも知れないが、自分に何かしらの関心を向けている視線はない。

なので、自分が店にあるリキュールで勝手にオーダーされていないカクテルを作ろうと誰も気にしない。

そして、この自分の判断は間違っていないだろう。

自分の特技を敢て挙げるとしたら、自分には他人の視線が分かる。

自分の家は故郷では名家と呼ばれ る家庭であった。
父は代々引き継いだ広大な土地を保有し、母は父が全国を周り、見つけた才女を迎えたのだという。
土地と金にものを言わせ、優秀な女性を迎え入れ、子孫に優秀な遺伝子を残し、より優秀な血族へと。

気持ち悪い。

俗にいう英才教育やら帝王学やらを学ばされ、世に対する知識が身につくにつれ、自身の家庭への嫌悪は強まっていった。

自身の血を否定した。

だからなのだろうか。

兄と妹はスポーツ、学問、芸術とみるみる頭角を現していく中、自分は至って普通であった。

他家の子と比べて長所も短所も特になく一般的であった。

それは、自身が生まれた天見の家では余程の罪であったらしい。

父と母はまるで、使えない道具を見るような瞳で自分を眺め。
そんな父と母に改良を命じられたのであろう、雇われの侍女や指導者達は、まるで囚人を見る看守の如く、常に自分の一挙一動に瞳を凝らし、何か不出来があれば、まるで蝉やコオロギのように教育という名の暴言を吐く。

兄弟は、そんな自分をあざ笑い、俗にいう虐めという遊びに自分を引き連れた。

有能ではないのが、そんなに悪いのか・・・?

そんなことは考えても無駄なので、伸びない能力の代わりに、なんとか彼らの瞳に止まらないように、常に生活の全てにかかわる人の視線を注視し、自身の不出来が、普通が映らないように、自分が視界に、彼らの世界に映らないように、日々を視線から逃げながら暮らしてきた。

16の時、逃げるように故郷を捨て 、この街に出てきたわけだが、そんなことを続けてきたので、なんとなく自分に誰かの視線が向けられているかどうか?
また、他人の瞳を見ればだいたい何を考えているか分かる。

昔の侍や忍者の如く、気配を読む。
そんな上等なものではないと思うのだが、これがなかなか的を得ている事が多い。

ただ、もっぱらの使用用途は、この街で危険に巻き込まれないために、害意ある視線を感じた時はすぐにその視線から外れるようにする。
他者に害意をもった瞳をしている人の視界には入らないようにする。
など、自身の身の安全のために使ったり。
バイト中、自身に誰の関心も向いていない時に、サボったりなどの使い方なので、そこまで誇れるものかと言うとそうでもないと思う。

ヒナに助けてもらった時のように、自分の視線が、どのような結果を生み出すものなのか?経験不足故か、理解していないこともある。


そんな事を考えながら、カクテルグラスにシェイカーを用意し、オリジナルカクテルを考案。
バイト中に自らの趣味に興じようとしている自分がいる。

そんな時にふと、客の話が耳を捕らえた。

「・・・ペルって知ってるか?」

・・・・・・・何かが頭の中を掻き回す。
目の前のカウンターで談笑している二人組みの男。

その視線は、強い好奇心で満ちている。

「ん?何だって??」
「だから。」

・・・・・・・・・・・・・

「ドッペルって知ってるか?」

・・・・・・・・・・ズキッ

「あぁ、最近流行ってる 都市伝説だろ?もう一人の自分が現れて殺しに来るっていう」

・・・・・・・・・・ズキッ!

「生き残るには、もう一人の自分を殺せってやつ」

・・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ナニかが・・・!ナニかが猛烈な勢いで頭の中を掻き回し、塗りつぶしていく・・・・!
シッテイル・・・・!!
ドッペル
シッテイル・・・・!!!
もう一人の自分
シッテイル・・・・!!!!
殺す
シッテイル・・・・!!!!!

ドッペル殺・・!!!!!!!!


カラーン
店内に客の来店を知らせる、ベルの音が響く。

同時に響く大雨がアスファルトを打ち鳴らす音。
ビルの路地裏を吹き抜ける夜風の匂い。

水滴が滴る傘をたたみ店 内に足を踏み入れる。

白く透き通る、その美しい顔に、黒く、滑らかな髪がたなびく。
「・・・ヒ・・・」

それを掻き分け、上げられた眼差しは、自分が初めて恋した瞳。

「ヒナ!!!!!」


最後に会ったのがいつかすら覚えていない。
でも、そんなことはどうでもいい。
想い人に会えた喜びが自分の胸を包み込み、歓喜の大声を店内に響かせてしまう。

今の自分の顔は初めておもちゃを買ってもらった子供のような笑みを浮かべてるだろう。

「久しぶり!!さぁ!座って座って!」

ヒナはいつかの日々のように、バーカウンターの右から4席目に腰をおろす。

「最近来ないから心配してたんだよ!カクテルはいつものやつでいいよね!?」

素早く、ナ ッツとおしぼりを彼女のテーブルの上に置く。

いつも自分の背後に置いてある、特製のカクテルグラスにミントリキュールとパイナップルジュース、シェイカーに氷。
この瞬間だけは世界一のバーテンダーですと言わんばかりに、自身の最上のおもてなしを準備する。

ドライ・・・ジンがもうない・・・・!?

「近藤君!ジン取って!!」

・・・・・・・・
結構大きめな声で言ったはずだが、彼の視線は自分の方に向かない。

隣で他の客を接客中のバイト仲間は、談話に夢中なのか自分の声は届いていないようだ。

いや、あの声量で聞こえてないはずがないのだから無視されたのであろう。

その視線は自分に全く興味を示そうとしない。

少し苛つきながらも、想い 人の前で同僚から無視をされたり、カクテル作りで戸惑ってるところなど見せたいわけもないので、場つなぎで別のカクテルを作りだす。

「と、とりあえず何か美味しいカクテル作るね!!」

・・・・・・・・・・・・

「ヒナ・・・・・・?」

久々の想い人との出会いに浮かれ、見落としていた。
想い人の、その視線は、哀しみ?苦悩?怒り?
そのどれとも形容できない暗い暗い影を落としていた。

その視線は自分にも、何にも向けられず、どこか遠くを見ている。

「・・・何かあった?僕で良ければ相談にのるよ?」

「ドッペルに出会うためにイベント!?」
「あぁ!この街のどこかで密かに開催しているらしいぜ!」

先ほど都市伝説の話で盛り上がっていた 二人組みの男が、酔った声を荒らげる。

「ドッペルを殺せば、何でも願いを叶うんだってよ!」
「神の力ってのも手に入るらしいぜ。参加してみたくね?」

初めて声を聞く男達が、どこかで聞いたような話をシテいる・・・・・
ヒナが・・・ヒナを・・・・ヒナ・・・・ヒナ・・・・・・


『ドッペル殺し』

その一言が店内に静かに響き渡る。


目の前のヒナの顔が混沌の中に凍りついていく。
頭にイタミが走る。

ドッペル・・・・ゴロシ・・・・

「ごめん・・なさい・・・」
暗闇がより濃く覆い尽くした冷たい瞳。
絞り出されたその声は懺悔のように、断末魔のように、聞いた自分の心を穿った。

「ヒナ!!!!」
ヒナは席を立ち、BARの外、傘も置 き去りにして、大雨降る夜の闇へと走り消えていく。

「すみません!先出ます!」
ヒナの豹変ぶりに驚き、思わず自分もバーテンダーの仕事を放棄して、傘も持たずに店の外、路地裏を走り抜ける。

突然の出来事に他の店員も圧倒されたのか、自分を引き止める者はいなかった。

路地裏の先、ネオン輝く中心街へと走っていくヒナを必死に追いかける。
大粒の雨が顔を叩き、視界を濁す。

(ヒナ・・・どうしちゃったんだよ・・・)

・・・・イタイ・・・・
頭の中で情景が被る。
あの日も自分はこうしてヒナを追いかけてイタ。

人混みをかき分け、街の中心の奥、さらに奥へと駆けていく。

この先にあるのは・・・・
何故か自分の足が重くなっていることに気づく。

にわか雨だったのだろうか?

もう雨は止み、大きな満月がその廃墟を照らしていた。

「クラブ・・・EdeN・・・?」

ポツ、ポツ、ポツ・・・
バチ、バチ、バチ・・・

西洋をイメージした館に植え付けられた木々から雨粒がエントランスの門に落ち、EdeNと書かれたLEDパネルは破損し火花を散らしている。
少し赤みを帯びた月明かりが割れたステンドグラスに反射する。

ザッ

「ツッ・・・・!!」

一瞬、この廃墟が賑わっていた頃の光が脳内を駆け巡る・・・

人々が列を作り、中の饗宴を待ち望んでいる・・・

いつ自分がここに来たのか思いだせない。

エントランスの門に貼られている破れたポスターは、1年前の夏の日付のまま残されている。
館への扉へと繋がる階段を一歩一歩上がっていく。

1つ
2つ
3つ

欠けた大理石の階段を登る。

4つ
5つ
6つ

荒れた夜風が、かつてこの街の輝きの象徴であったものを嘲笑うように、廃墟の瓦礫や荒れた草木、ゴミを吹き飛ばす。

7つ
8つ
9つ

相克する二匹の蜂が描かれたパネルの真下、金の装飾が施された木造の門を閉ざしていた鎖はちぎれ落ち、微かに開いた隙間から薄明かりが漏れている。

10

階段を登り終え、門の取っ手を引き、EdeNへの入り口を開いた。



ザザッ・・ザッ・・・

瞬間。

様々な感情の視線が自分に向けられるのを感じる。


赤いコートに身を包み、ウェーブのか かった長く 薄茶色の髪、派手な化粧 の赤い口紅とアイラインが浮かび上がる。
男を魅了する為に仕立てられたのであろう肌を露わにする紫色のドレスをコートの下に着込んでいる。20代後半くらいだろうか?
そのキャバ嬢は警戒の眼差しを向けた。

手に持ったタバコに火をつけながら、黒い短髪に無精髭、黒いパーカーの下、Tシャツの隙間からは刺青が濃く浮き出ている。
タバコの煙をフーっと宙に吹きける。30代半ばくらいだろうか?
そのヤクザは冷たく突き刺さるように視線を飛ばした。

何に怯えているのか?
焦点の合わない視線を一瞬自分に向けながら、だらしない、しわくちゃなワイシャツをズボンに押し込める。
額にかいた汗をハンカチで何度も吹きながら、中年太りした50過ぎくらいの社長はズシっとホールの床に腰を下ろした。

所々に汚れや破損が目立つ高級そうな西洋のソファに腰掛け、黒いワイシャツの隙間から逆さ十字のペンダントを垂らしている同い年くらいの青年は、クスクスっと伏せた顔から嘲笑の視線を零しながら、手にした本を読み続ける。


倒れて、壊れて、床に転がる椅子やテーブル、そしてその残骸。

EdeNと書かれたバーカウンター、そして中二階のDJブースのLEDパネルは外と同様にショートし、不規則に点滅を繰り返しながら、埃が被った巨大なシャンデリアが暖かいオレンジ色の光を照らす。

その灯りの下、照らし出された最後の一人がいた。

純白のワンピースに、小さなソファの上で雨に濡れた白く白く透き通る肌を寒そうに両腕と膝で抱える、長く艶や かな髪の同い年の少女。

やっと・・・追いついた!

「ヒナ!!!!」
そして少女は自分の声に身を震わせ、顔を上げた。

「マコト・・・君・・・」
泣きたくて、嬉しくて、哀しくて、そんな愛し気な笑顔と涙を浮かべながら、自分の瞳を見据える。

ザッ

「ヒナ・・・」
そんなヒナを安心させたくて、何故かイマ、ココで会えたことが奇跡のように嬉しくて、少し泣いてしまいそうな感情を抑えて、笑みを造った。

ザザッ

なんでだろう・・・
さっきも一緒だったはずなのに・・・
偶然と必然が合わさって、長い時間をかけて、やっとヒナに会えた気がする・・・

駄目だ・・・涙が出そうになる・・・

二人の間の時間が緩やかになっていくような気がし て・・・
ずっと瞳を合わせて・・・・


「揃ったな」
それを遮ったのは、聞き覚えのある青年の声。

ザ!ザザッザ・・・ザザザザザザザザザザザザザッザ!!!!!!!!!!!!

世界がまるで、壊れたテレビの中のようにノイズが閃光のように疾る!!!!!!

黒に黒に世界が塗りつぶされる!!!!!!!!

一瞬、何百と言う昏い視線を感じ!!!!


ザッ・・・・

誰の視線も感じない暗闇に世界が侵食された。


徐々に赤い光が視界を満たしていく。

そして見えてくる。
変貌した世界。
この異常な空間。

投げ込まれたのは6人の男女。

綺麗な輝きを放っていたシャンデリアは、血と骨と肉塊が入り混り、6人の絶望を投影したかの ような、禍々しく理解不能なオブジェへと変わり果て、歪んだ空間とともに、椅子や柱もねじくれる。

ドクッ・・・ドクッ・・・ドクッ・・・ドクッ・・・

血で赫黒く錆びた鉄線が絡まった肉塊がフロア中を包み込む。紫色に変色し、血走った瞳がそこかしらから見開き、生贄を見つめるような視線を6人に向けた。

ドクッ・・・ドクッ・・・ドクッ・・・ドクッ・・・

そして恐怖、不安、死を感じさせる不吉な赤紫の霧が辺りを覆い尽くした。

此処に揃ったのは6人の男女。
心に罪を抱えた者達。
自覚している者、無自覚の者。

ドクッ・・・ドクッ・・・ドクッ・・・ドクッ・・・

床に壁に天井に全てが赤黒く脈動し、ナニか人智の及ばぬモノの体内を連想させる。

彼らは喰われ、囚われたのだ。

此処は平等に希望と絶望を、チャンスと死を6人に与えるだろう。

アラウンド・ザ・ワールド

今はこの異常な空間が囚われた6人の世界の全て。

皆、理解の範疇を超えた出来事に慄き、青ざめ、驚愕の視線を見せる。

一人だけ順応している者が、読んでいた本を閉じ、その世界の始まりを告げる。

逆さ十字のネックレスを片手で弄びながら、長く垂らした灰色の前髪を背面へと掻き分ける。

まるで、楽しいイベントの始まりを告げる司会者のように高らかに。
まるで、誕生日にもらった玩具で遊ぶ子供のように目を輝かせ。

宣言する。

その人間を自分は知っている。

岬 海


『さぁ!始めようか!!!』


・・・・ズキッ

ドッペルって知ってるか?

・・・・・・・・・・ズキッ

あぁ、最近流行ってる都市伝説だろ?もう一人の自分が現れて、殺しに来るっていう

・・・・・・・・・・ズキッ!

生き残るには、もう一人の自分を殺せってやつ

ズキッ!ズキッ!!ズキッ!!!ズキッ!!!!ズキッ!!!!!ズキッ!!!!!!

ドッペルに出会うためにイベント!?
あぁ!この街のどこかで密かに開催しているらしいぜ!

ズキッ!!!!!ズキッ!!!!!!ズキッ!!!!!!!ズキッ!!!!!!ズキッ!!!!!!!ズキッ!!!!!!!!

BARの客が話していた噂話を思い出す。

だけど、自分はそれが噂で はないことを、なかったことを知っている、体感している。

割れそうに痛む、頭を抱えこむ。

嫌だ・・・嫌だ、嫌だ!嫌だ!!嫌だ!!!


岬 海は、そんな自分を嘲笑うかのように一瞥し、これから此処を埋め尽くすであろう死を歓迎するかのように笑みを浮かべと、そのイベントの名を奏でる。

『ドッペル殺しを』

fin.
First Event
-サイカイ-