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プロローグ&第一章

「終わりの始まり系」

​「ゲームなワタシ」

パラドッグス-八ツ目の大罪-

-プロローグ-
「終わりの始まり系」

人生というモノが

もしゲームだとしたら

ワタシは、今まで何度もあった選択肢を

選んでこなかった人間だ・・・

小学生の時に、獲られたランドセルを「返して」という勇気
中学生の時に、刻まれた制服を握り締め「止めて」という勇気
高校生になって、誰とも人間関係を築こうとしなかった「怠惰」

今までに何度も自分の前に現れた、明るい未来へと向かうその選択肢を、いつも私は時間切れタイムアップまで、ただ泣き、黙り込み、震え、逃してきた。

掴み取れなかった選択は消え
幸せを掴めないゴミクズのような人生を変えるチャンスをワタシは何 度も逃してきた。

だから行き着くのは当然バッド・エンド

薄暗い塔の最上部
十字架と犬をモチーフとした装飾で彩られた展望台
美しい湖と、森で囲まれたお城

夜の終わりを告げるように、朝日が少しづつ差し込み、空が白みはじめる。

夜と朝の間の時、涼しい風が頬をなで

あたりに散りばめられた、臓物と血と、かつて人間だった物の生々しい死臭を漂わせる。

夜が明けた

初めて私にできた友人達の血肉によって彩られた、巨大なガラスの十字架が展望台の中心で光輝く


そして選択をしてこなかった私に、最後で最悪の選択肢が与えられる。

微笑を浮かべながら、まるで泣く赤子をなだめるように優しい声では、泣きじゃくる私の額を壁に押さえつける。


「右」と「左」どっちがいい?


これが、綺麗な指輪を差し出されてのプロポーズだったのなら、なんて素敵だっただろう。
「左手の薬指に」なんて恥かしがりながら応えたかも知れない。

これが、優しかったパパの手のひらだったら、どんなに良かっただろう。
左手は空?飴玉は右手に移動した?
「右手!」と笑顔で答えたかも知れない。


涙と鼻水で顔をぐしょぐしょにしながら、ワタシは生命を乞う。
は何を言っても微笑を動かさず

ただただ淡々と、血肉で染まったナイフを私の眼前に突きつけ、選択を問う。

「右目」と「左目」どっちがいい?

タイムオーバーはのナイフが私の眼に達するまで、選ばなければ、その赤黒く輝く凶器はワタシの左右どちらかの目を突き破り、脳みそをぐちゃぐちゃにミックスされて、そんなワタシは痛みに叫び発狂しながら死に覆われて終わるだろう。

だけど、こんな絶望的な選択肢の何を選べば良いのだろう

どちらにしてもバット・エンディング
私の人生という名のゲームはここで終了

なんでこんなことになったのだろう

分かっている

選んでこなかったから

7日前も、自分の虫の予感に従ってこんなところに来なければよかった。
6日前も、もっと友達と絆を深めていればよかった。
5日前も、勇気を出して告白していればよかった。
4日前も、友達を信じてあげればよかった。
3日前も、恐怖に押しつぶされずに歩み出せばよかった。
2日前も、絶望に打ち勝って走り出せばよかった。
1日前も、大切な仲間達 のためにできることは沢山あった。


人生には選択肢はあってもリセットボタンはない

セーブもできないし、ロードもできない

だから8日目の朝に訪れたこの「選択死」に抗う術はワタシにはない。

ナイフが迫ってくる。


ワタシの友達は、みな勇敢だった。
変わった人達だったけど、みんな優しく、最後まで死に抗っていた。

もし、もう一度みんなと一緒にいれたら、こんな奴に負けずに笑顔でいられる日常にみんなで戻れたのかな

ワタシは決意する。

もうすぐナイフがワタシの瞳を抉るだろう・・・

このまま、こいつの好きになんてさせてやるものか!

「・・・・・左目」

一瞬、顔を驚かせ、は吐き気のする微笑をまた浮かべワタシに問う。

「どうして?」

ワタシは精一杯の笑顔を浮かべて言ってやる

「あなた・・・嫌いでしょ??」

は狂ったように笑いながら答える

「正解」


ズブゥゥブチュゥゥグチャァァァあああああああああああああああああああああああああァァァア!!!

ワタシはワタシが死んでいく音を脳で直接聞きながら、絶叫する
そして神がいるのならば、その者に願った

人生で初めて選択したワタシを
選択死の先にまだ可能性が0.00000001%
でもあるのならば

こんなワタシを仲間だと言ってくれた。

大切な大切な友人達を助けるチャンスを、未来をください!!


アアアアアアアあああああああああああああああああああああああああァァァア!!!

あ・・・・・・・・・・



痛みが消え
セカイが闇に沈み
自分の死を自覚する


「■■■」
「■■■」

ぼんやりと、もうない左目の脳裏に浮かんだそれは選択肢だった

「生きる」
「消える」

ワタシは迷わず選択肢を掴み取る

もう一度、この夏、初めてできた友達。
初めて心の底から笑い合えた仲間達を取り戻すために・・・・


もうワタシは迷わない

選択を未来を掴み取る

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・光が切り裂いた先にみんなが いた

「おはよう。ヒトミ」



---第一章---
「ゲームなワタシ」


私は目が覚めると夕暮れ時の、ひまわり畑に寝転がっていた。
久々に外で見上げる夕日の赤黄色の光は美しく、身体を包み込む、ひまわりの香りに彩られた夏風はとても気持ちがよい。

「お!は!よ!う!」
そんなひまわり畑よりも色鮮やかな朱色の髪をなびかせて、凛とした瞳の女性が私のことを覗き込んでいる。

ん・・・・・・・
え・・・・と・・・・

あ・・・・

「ごめんなさい、恋華さん」
「・・・・・ごめんなさい、恋華様。」

「ご、ごめんなさい恋華様!」
「よくってよ。あなたなかなか起きないし、よだれ流しながら身体ピクピクしていて、まるで、まな板の上の活け造りの魚みたいだったから心配したのよ。
もう少しで救急ヘリを呼ぶところだったわ・・・・・・・・
この村にはヘリポートはあるのかしら?」

「ない・・・ですね」
「そう。目を覚まして良かったわね。さぁ行きますわよ。」

そう言って恋華さんは私に手を伸ばす。

まるでシュミレーションゲームのヒロインのような美しさ。
スラリとした手足。
白く透き通る肌。
西洋のお人形のように整った顔立ち。

まるで美しいローズのように舞い踊る朱色の髪。
見る者を魅了する、その大きな瞳。

彼女はゲームのヒロインではなかった。

長い、長い、とてつもなく永い夢から覚めたような霞がかった頭から彼女に関する記憶が徐々にロードされていく。

彼女は3次元の女性。
私の初めての友達。


私は恋華さんの手を取り立ち上がる。
眼鏡をかけて視界をクリアにすると、山々と湖と夕空に彩られた「衣世見村」を一望した。

ひまわり畑の丘の下から声がする。

私の初めての友人達の声が・・・・・


そう、ここはゲームの世界ではない。
だんだんとハッキリしていく記憶と共に、何故か涙がふと頬を流れた・・・

「??」

自分でも分からない嬉しさと悲しさと相反する二つの感情がごちゃまぜになったような気持ち・・・


まるで初めてこの世界に生まれ落ちたかのような錯覚・・・

まだまだ虚ろな記憶を、私はだんだんと思い出す。

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『ひとみ、おはよう。遅刻するぞ。相変わらずねぼすけだな』

そう言って、ハジメ兄さんは私の布団を剥ぎ取り、そのままお姫様だっこで抱えてリビングに運んでいく。

兄さんは、都内有名国立大学を特待生で入学し、首席で卒業と言われているほどの秀才。
見た目もとてもカッコよく、大学でファンクラブまであるらしい。

そして、何よりすごく優しい。

リビングに行くと、母が創った料理を、父が新聞を読みながら食べていた。

今日の朝食はフレンチ?

『おはよう、ひとみ。冷めないうちに早く食べちゃいなさい。』

『ひとみ、高校生活は順調か?』

母は40代には見えない、とても美しい女性で料理にピアノに花道になんでもそつなくこなす。
昔はちょっと有名な女優だった、私の憧れの人だ。

父は某巨大金融のお偉いさんで、日本の経済を支えている。
少し厳格なところもあり、よくしかられるが、大好きなお父さん。

『いただきます!』

みなで朝食をとる。

兄さんも、母さんも、父さんも

みんなみんな大好きだ。


高校へと向かう道のり。

『ひとみさん、ごきげんよう。』
『おはよう、ひとみさん』

みんなが声をかけてくれる。
私はあまりその気はなかったのだが、生徒会長に推薦され、職務をこなす内に学校中にいろんな友達ができた。

みんな、とても良い人達で大好きだ。

『ひとみ』

ふ、っと私の視界が温かい両手に遮られる。
見なくても分かっている。
この手は、リョウの手だ。

笑いながら、リョウの手をどかし振り向くと、そこには私の恋する同級生が立っている。

高校の校門前

リョウが少し照れながら呟く。

『映画のペアチケットもらったんだけど、さ。今日の放課後空いてる、か?』

私は答える

A・『うん!もちろん!』
B・『ごめん、今日は外せない用事があって』

------------------------------------ピコ、ピコ、ピコ、ピコ

選択肢のタイマーが時を刻んでいく。

荒れ果てたリビング。
食器は砕け、椅子は砕け、カップ麺やビールの缶などのゴミがそこらかしらに散らばっている。
窓ガラスは砕け散り、石に巻いて投げ入れたのであろう【死ね】と書かれクシャクシャになった紙切れがちらほら。

もう許してあげれば良いのに、、
死んでるんだから、、、


ピコ、ピコ、ピー

手にもったシュミレーションゲームの選択肢のタイマーが時間切れし、ゲームの中の私はそのまま映画のお誘いを断ってしまった。

一旦、ゲーム機を置く。

そして、一つだけ綺麗にフロアの中央に立っている椅子の上。

ぶらぶらぶらぶらと揺れながら、糞尿を垂れ流し、目玉を飛び出しながら首を吊って絶命している父を見上げる。

母は、汚らしいエプロンをかけ、ボサボサの髪を掻き毟りながら、ロビーの端っこで何かを一人でブツブツ呟いている。

トラックの運転手をしていた父が人を引き殺したのが1ヶ月前。

それから遺族、周囲からの批難の嵐。賠償への金策、膨らむ借金、訪れる回収屋。

もともと父はDV男、母はパチンコギャンブル狂、破綻した家庭だったが、その破綻すら破綻し父は死に、母は狂った。


だけど、私の日常はそんなに変わり映えはしないのだろう。

子供の頃から私は自分の意見を言えない子だった。

小学生の頃、カバンを盗まれ、牛乳をかけられても何も言えなかった。

中学生の頃、制服を破られ、無理矢理犯され、SNSでその写真をばら撒かれても何も言えなかった。

高校になって変わろうと決意して、通ったところで何も変わらなかった。

私はいつだって流されるまま、されるがまま。

嫌だと言う選択肢の一つでさえ選べない、そんな人間。

だから外界との接触を絶ち、自室でシュミレーションゲームの世界にのめり込んだ。

あ、さっきの選択肢。
セーブポイントからやり直してちゃんと映画の誘いに応えないと。

ピーポーピーポーピーポーピーポーピーポー

パトカーや救急車の音がする。
どうやら母の狂った声に駆けつけ、父を発見した近隣住民が通報したんだろう。

母がまた、奇声を発する。


あ、私の日常少し変わる?
これ以上父のDVによる傷跡や、母のギャンブル負けによる金銭の要求はなくなるのかな、、

どうせ私は幸せに繋がる選択肢を選べない人間。
流されるまま、不幸なストーリーを進んでいく。
あんまり関係ないか、、、


イィィいいいイイイィ!!!

母の奇声がいっそう煩くなる。

そんなことしても無駄なのに、、、

この三次元の世界にはセーブもロードもリセットボタンもない。
正しい選択肢を選べなかった人間にはやり直すチャンスはもうないんだから。

警官の声が、ドアの向こうから聞こえてくる。

私は再びゲーム機を手に取ると、先ほどの選択肢の前のセーブポイントをロードする。


『映画のペアチケットもらったんだけど、さ。今日の放課後空いてる、か?』

私は答える

→A・『うん!もちろん!』

『良かった!じゃあまた放課後』
リョウ君はそう言うと笑顔で校門の中へ走って行った。



冷たくなった父は駆けつけた隊員に運ばれて行った。



「伊世見村」




微かに幼少期の記憶に残っている風景。




生い茂る山々。

黄色くあたりを染め上げる、ひまわりの花々。

煩いセミの鳴き声。

村の中央、大きな湖に夕日が反射する。







父が自殺してから数日後、私と母は地方の山村にある実家に見を置くこととなった。




母は落ち着きを取り戻しながらも、父の自殺と周囲からのパッシングにより精神が相当弱ったようで、ギャンブルも行かず、静かに一日を縁側で空を見上げ送っている。




母方の祖母と祖父はとても優しく、私に畑で取れた美味しい野菜やインスタントではない、温かい手作り料理をご馳走してくれる。




ピコ、ピコ、ピコ

あいも変わらず一日をシュミレーションゲームやり続けながら日が沈み、明けるのを、母とは逆の縁側で見上げる私。





ピコ、ピコ、ピコ

都会も、ここも、私にとっては同じ。

現実を虚構に。



3次元の世界へとダイブし、リアルで栄養補給し、またダイブ。

1日が過ぎていく。



ピコ、ピコ、ピコ

一つだけ気になるものがあった。

昼と夜の狭間。



夕時の光に照らされた、高台一面のひまわり畑。



その朱く金色に照らされる花々は、とてもリアルな世界のものとは思えず。

私の胸中に久々のリアルへの渇望を生み出してきた。



A・ひまわり畑を見に行く。

B・行かないで家に残る。



久々に沸き立つリアルでの選択肢。



もう、ここには私を虐める同級生達も、DVを振るう父も、私を貪ろうとする母もいない。



私の足は自然と高台へと向かっていった。 


「きれい、、、」

それは長らく出た事のなかった心の声。

リアルの世界に久々に自分がこぼれた。

昼の終わり、夜の始まりを告げる紅き閃光が山々の隙間から、広がる湖に反射し

その輝きと、夏の涼やかな風を受け、金色の花々があたり一面を埋めつくしていた。

蟬しぐれも、まるでこの光景を絶賛する喝采のように聴こえた。


あの、仄暗く、汚く、息もできないような自宅には決して差し込むことのないような光景。


私は、ゲーム機を高台の草むらにそっと置くと、眼下に広がる光を眺めていた。

どれだけの時間が経ったのだろうか、、


まだ夕日が落ちていない事から、数分くらいの時間しか経っていないのだろう。

とても、長い時間、ここに佇んでいる気がする。

久々の外出に疲れてしまった私は、ゲーム機を拾い上げると踵を返し、祖母の家に歩を進めた。

「ウォ!絶景!百景!大自然!万歳だな!ひまわり!久々に見たぜ!そして煩く響くセミ!これこそ日本の夏だ!」

「少しは大人しくしたらどうだ?都会も田舎も貴様がいたなら、デジベル数が変わらん」

「あら、良いんではなくて?
こういった舗装しがいのある、踏み場のない田舎道に、カードも使えない前時代的な会計システムと土産レベルにも飽き飽きしていた所だったけど、この光景は世界の絶景各所を回ったワタクシにも感するところがあるわ。」

「確かに良い眺めだね。ボク的には、風景よりもこっちだけどね。
ほら!この蟬、クマゼミだよ!ひぐらしに、エゾゼミも!
いやー、虫カゴ余裕持って5つ用意して来てよかったよ。」

「・・・・・・アツイ・・・・」

「ねー、もう観光は十全の十全に楽しんだよぉ。足疲れたよぉ。宿帰ろうよぉ。お腹空いたよぉぉぉぉぉオオ〜えぐっ、えぐっ」

「ほら泣かないの。今かえっても夕ご飯まではまだ時間あるわよ。
よしよし、帰ったら、私のデザートあげるから、もう少しみんなで散歩楽しもう。」


ふと、聴こえた声に高台の下の畦道を見ると、見たことのない制服を着た高校生くらいの男女が7人、ひまわり畑や湖を眺めていた。


それが私と彼らの出会い。
そして私と彼らの死別のキッカケ。

所謂、終わりの始まり系な話。


さぁ、ここでプロローグ的な昔話はお終い。
マッタリとした、平凡な、幸せに戻れる世界の話はお終い。

目を醒まそう。

私の足掻きを始めよう。

イマを始めよう。

この忌々しい塔で起こる死を殺す為に。


「おはよう。ヒトミ」

恋華に手を引かれ、古びたベットから身を起こす。

そして、まだみんながいる食堂へと歩き出す。

A.恋華についていく
B.ここから逃げ出す


もちろん・・・A。


食堂の扉を開くと、みんなが揃っていた。
死者を一人含め。

椅子に縛り付けられた老人の腹部はバッサリと裂かれ、中身の生々しい腸が食卓の上で綺麗な蝶々結びで置かれていた。

その上に乗せられた八つに分けられたら一皿のホールケーキ。
チョコプレートには、「Happy new game」の文字。

まるで誕生日ケーキのようにプレゼントのように不愉快なサイコシーン。

恐怖、絶望に絶句し嘆き、吐瀉物を撒き散らす友人達の間を抜け、私はホールケーキに拳を叩きつける。

「みんな、話があるの・・・」

人生はゲームだ。
だけど私も、みんなも愛しい人達だ。

選択肢は無数にある。
ここからは、一つでも選び間違えれば死が愛する人に訪れる。

さぁ、始めよう

このクソッタレなゲームを殺しきろう。

私は左目を、見開いた。



プロローグ&第1章
fin.
written by 鷹人

 

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