異世界カジノ

「不死の王」

鳴り響くコルクの音!

 

目が眩みほどの輝きを放つ金箔のインテリアの数々、フロアの中心には大理石で作られた勝利の女神が微笑み、噴水が舞いう。

 

喜びと、悦びと、悔恨と、絶望の声が響き渡り、コインを弾く音と共にこの場を賑やかす。

 

男はシャンパングラスを片手に笑顔を振りまくバニーガールの一人からグラスを奪い取ると、一気に飲み干し、隣の美女の肩を抱いた。

 

「さぁ、今日も楽しむとするか!」

 

男はスーツや時計、靴など全身を最高級のブランド品で揃え、開け放ったシャツの胸元には輝く黄金とダイヤでできたネックレスを輝かせていた。

 

作ったアプリケーションが爆発的なブームを起こし、一気に大富豪へと成り上がった男。

歳はまだ若く30前半ほどに見えた。

 

金が出来てからは、どう金を用いて快楽を貪るかを追求し、最近はお気に入りの女を連れて各国のカジノで豪遊することを趣味としていた。

 

隣にいるブロンド髪のスタイリッシュな美女は2日前までいた国のカジノでナンパした女で、そのままこの国カジノへと連れて来ていた。

 

今日は大勝か大敗か??

 

使っても有り余る金を持った彼が気になるのは、今日はどんな女を口説こうかということであった。

 

彼のカジノの楽しみ方は、アタッシュケースいっぱいに詰め込んだ金を勝とうが負けようが存分に使い、使ったテーブルの女性ディーラーを口説くといったものであった。

なので遊ぶ種目は限られており、ディーラーがおり、会話が成り立つもの。

だいたいブラックジャック、ルーレットあたりを嗜んでいた。

 

「さて。」

 

子分に目配せをし、札束を満杯まで入れ込んだスーツ2つと美女と共に、カジノの奥の扉へと進んでいく。

 

このカジノには招待を受けて遊びに来ていた。

 

この国の政府筋の友人が最近の彼の趣味を聞き、コネクションで最上級のおもてなしとともに、この国最大のカジノのVIPルームへと彼を誘った。

 

スタッフの誘導の元、再奥にある全面が金造りの重厚なドアを開け、その部屋へと足を踏み入れる。

 

いっそう眩い光に一瞬目が眩み、男は立ち止まる。

 

豪勢。

 

その言葉に限る一面が黄金で埋め尽くされた部屋。

 

その中央に一つ置かれた黄金で作られたテーブルには、黄金の椅子が二つ空席となっており自分達を招き入れているようだった。

 

自身の顔が写るほどに輝く金一色で造られた部屋。

 

この部屋だけで自分のアタッシュケース何十個分の価値があるのだろうか・・・

 

男は久々の興奮と畏怖で固唾を飲んだ。

 

それは部屋だけではない、ゲームテーブルの向かいに座る二人の少女を見たからであった。

 

歳は10代か20代か?

 

今にもこの空間に溶け込んでしまいそうなくらい透き通った肌。

グレーの髪髪に碧眼の瞳。

碧眼の短髪にグレーの瞳。

 

幼い風貌の中にある得体の知れない艶美と妖艶。

 

その双子の女は幼い顔立ちをしていながらリトルガールと呼ぶのか、レディと呼べば良いのか?

 

年齢が不詳というより、形容する言葉がみつからない。

この世の者とは思えない不思議な美を漂わせていた。

 

「「お客様。どうぞこちらへ。」」

 

二人の女は部屋へと訪れた自分たちに席へと座るよう促す。

 

服装はこの店のディーラーが着ているそれと同じもの。

胸元が開いた白いシャツ、黒のベストにパンツ。

双子の女性ディーラーとは、また趣向が凝っている。

 

久々の興奮に鳴り止まない胸の高鳴りを隠さぬまま、男は席へと座った。

 

連れてきた女性が自分のエスコートに不満を抱いているようだったが、もはやブロンドの女のことはどうでもよかった。

 

「こんにちはリトルレディ。君達はとても美しいね。ここは長いのかな?私は初めてでね。君達みたいなディーラーが持て成してくれるのならば真っ先にこのカジノに来ればよかった。」

 

「フフフ。嬉しいですわミスター・ポール、そしてミス・サラ。本日は当カジノのVIPルームへようこそお出でくださいました。本日ディーラーを務めさせて頂きますクオンと申します。」

 

グレーの瞳の女性が優雅にお辞儀をする。

 

「あは・・・・フフフ。ありがとうございます。同じくディーラーを務めますシオンです。」

 

碧眼の瞳の女性が遅れ気味に同じようにお辞儀をする。

 

クオンと名乗った少女の長髪がサラリと舞い、なんとも言えない芳しい香りが漂う。

シオンと名乗った少女の童顔と反比例したふくよかな胸が、開いたシャツの間より垣間見える。

 

思わず、テーブルの上を飛び越えて襲いたくなる欲求を堪え、呼吸を落ち着かせる。

スマートにジェントルマンに。

それが男のナンパの流儀。

 

隣に座ったブロンドの女性は、その様子が気にくわないように男と二人のディーラーに細めた目を向ける。

 

「さぁ、では早速ゲームを始めましょう。」

 

クオンと名乗った少女が面を上げると、右手にはいつの間にかカードデッキが握られていた。

 

カードのチェックを促すように男へとその手を伸ばす。

 

「結構。この店はそんな野暮なマネをする店ではないだろ?君達のことを信用することにするよ。」

 

クオンはニコリと微笑むと、カードを黄金のシューターへと入れ込んだ。

 

「こちらどうぞ~。」

 

いつの間にか、自分達の側へ移動していたシオンと名乗った少女が手に持った黄金のシャンパングラスを、自分と連れて来た女性の手元に置く。

その視線は連れの女性に強く向けられていた。

ブロンドの女は明らかに不愉快そうな顔をする。

 

連れて来た女を牽制してるのか?

このシオンという少女、自分のことを気に入ったのかも知れない。

この子の方が口説きやすいかも知れないな。

ただ、せっかくの双子なら両方とも・・・

 

「ミスター。よろしいですか?」

 

「あ、ああ。」

 

邪な妄想に浸っていた自分を引き戻すようにクオンが笑顔で呼びかける。

体面を取り繕うと、手元のシャンパンに口をつけクオンへと向きなおる。

 

クオンの隣へと戻ると、シオンも手にしたカードをもう一対のシューターへと入れ込む。

 

「VIPルームのゲームはブラックジャックとなります。ルールは一般的なカジノのものと同じです。ルールのご説明は必要ですか?」

 

必要ない。

と言いかけたが、あえて聞くこととした。

 

「あぁ、僕は大丈夫なのだが、彼女はまだ素人だからね。お願いするよ。」

 

隣のブロンド女性のブラックジャッックへの理解など、知ったことじゃなかったが、レディファーストの精神を二人のディーラーにアピールするため、ジェントルマンを気取る。

カジノのゲームと同じく、こうゆう小さな積み重ねが最後の勝利へと繋がるのだ。

今日の目標はダブルでこの姉妹を持ち帰ることとした。

 

「では簡単に。ブラックジャックは二枚のカードを用いて行います。私とシオンが一枚づつカードを配らせて頂きます。手元に配られた2枚のカードの合計値が21に近い方が勝ちとなります。2~10はそのままカウント、J、Q、Kは10でカウント。Aは1か11を選ぶことができます。2枚の合計値が21ちょうどだとブラックジャックとなります。21を超えてしまうとバーストとなり負けとなります。次に・・・」

 

ブロンドの女が知ってるわ。っと、クオンの言葉を遮る。

そのきつい視線をフフフと受け流すと、シオンは再びお辞儀をした。

 

「失礼。彼女とは先日まで滞在していた国のカジノで出会ったばかりでね。あまりカジノは行かないようだったのだがブラックジャックに関しては勝利の女神のようだ。気を悪くしないでおくれ。」

 

「いえ、それは楽しみでございます。では次に賭け金に関してですが・・・」

 

「ゲームは一回のみ。オール・オア・ナッシングだ!・・・です。」

 

クオンに視線を送られたシオンが賭け金に関しての説明を始める。

 

「ゲーム回数は一回だけ?」

 

「そうだ!・・です。」

 

「ミスター・ポール、ここではチップ等は用いません。」

 

シオンのたどたどしい説明を遮ると、クオンが変わりに説明を再開する。

 

「ミスターが本日お持ち頂きましたもの全てを一回のブラックジャックに賭けて頂きます。」

 

流石に耳を疑った。

 

一回のみのブラックジャックなど聞いたことがないし、金銭を増やしに来るのが主の目的ではないが持ってきた金は億を超える。

長時間ゲームを楽しみながら、この姉妹のディーラーを口説こうと思ったのに、場合によっては一瞬で億の金を失い、楽しむ時間もないではないか・・・

ちょっと待ったと口を挟もうとした瞬間、クオンがその言葉を遮る。

 

「お客様が勝利された場合、この部屋を差し上げます。私どもも含めて。」

 

遮られた言葉を唾と一緒に飲み込む。

今なんといった??

この部屋がリターン??

この黄金の部屋を??

 

改めて黄金で埋め尽くされた部屋を見渡す。

 

自分が持ってきた金など一瞬で消し飛ぶほどの輝き。

 

そして、なんと言った???

私どもも含めて??

 

「リ・・リトルレディ。確認だが、この部屋の黄金なども全て頂けるということかな?そして私どもも含めて・・・というのは?」

 

「言葉通りでございますミスター。この部屋や備品に至るまで構成する全てのモノを差し上げます。そして私どもも・・・」

 

クオンは一呼吸おくと、まるで誘惑するような淫靡な視線を向けながら告げる。

 

「ミスターが勝利なさった際は、私どももミスターの自由にして下さいませ。」

 

「コールだ!!」

 

持ってきたアタッシュケースを己の手で卓上へと置く。

 

黄金のテーブルが金属がぶつかり合う、重厚な音を鳴らす。

 

胸の高鳴りはメーターを振り切り最高潮へと達していた。

 

最高だ!最高の夜だ!!

俺が求めていたのはこういうものだ!!

 

億万長者になってから続く退屈な日々、求めていたのはこういう刺激!!

 

オール・オア・ナッシング上等!!

 

勝って、黄金も!目の前の魅惑的な姉妹も!!全て手に入れる!!!

 

久々に燃え滾る闘志に人生で最も大きな投資をしたことに気づかぬまま、男はクオンの提案を受け入れる。

 

そんな男の様子をクオンは満足気に舌なめずりし、シオンはニヤっと笑いながら一言、クール!と言った。

 

そしてクオンがシューターに手をかけカードが配布される。

 

「・・・・・・・」

 

男の顔からは、先ほどまでの余裕は一切消え、真剣そのものとなっていた。

また、隣のブロンドの女の顔の歪みも、先ほどまでの嫉妬や虚栄心からではなく緊張と不安によるものとなっていた。

 

それはそうである。

男からしてみたら、得られる金額は遊びの範疇を超え、尚且つ一番の目的であった美女が双子の姉妹という希少価値付きで手に入る確約が付いているのだから。

女にしてみれば、たまたま旅行先の国で知り合った羽ぶりの良い男についてきたら、流れで高額の勝負のパートナーにされているのだ。

負けたら何をされるか分かったものではない。

お前の責任だと殺されてもおかしくない金額がこの勝負にかけられているのである。

必然、必死となる。

 

「あはぁ・・・」

 

そんな必死な表情を浮かべる女を見てシオンは、思わず顔と声が惚けてしまった。

クオンも気に入ったのであろう男の真剣な眼差しにウットリしているようであった。

 

「カードはミスター・ポールが8とAで19。ミス・サラが9とAで20。お二人とも素晴らしい強運でございます。流石は当カジノのVIP。」

 

男は思わずニヤリと笑う。

 

自分も良い手だが、連れてきた女の手は20。

21のブラックジャック以外にディーラーの勝ちはない。

 

そしてディーラーの手役を見ると、アップカードは8、仮に伏せられているホールドカードがAであったとしても最高で19。

表向きのアップカードをクオンがシューターから、伏せているホールドカードをシオンがシューターから一枚づつ。

ディーラーは二人だが親はあくまで二人で一人ということらしい。

 

この時点ではこちら側がかなり優位である。

 

連れの女を保険で20のままスタンドさせ、自分はヒットでブラックジャックを目指し、さらに勝負に出ることもできる。

 

興味が消えていた女であったが、もしこの勝負に勝ち、目の前の双子を手に入れたら、宿泊代とフライト代で数百万くらいならチップをあげても良いだろう。

 

 

「リトルレディ。今日からこの部屋の主は僕ということになりそうだね。もちろん君達の主人も。色々とおもてなしは得意なんだろう?」

 

「フフフ。はい、古今東西、近代から中世、古代、様々なおもてなしを心得ております。ですがミスター、まだ喜ぶには早いんじゃないですか?」

 

クオンは笑みのままホールドカード開く。

 

数字はA。

合計値は19。

 

「ハハ!一回のブラックジャックでAが3枚とは!しかも同じ手役!先ほどはリトルレディ、君達を信用すると言ったが、つい疑ってしまうな。」

 

「フフフ、御二方が豪運でいらっしゃるからですよ。私どもにも今夜はお二人の豪運が流れてきているのかも知れませんわね。」

 

「カードは二人で2デッキ使っているようだが、ヒットの場合ははクオンちゃんから配られるという認識であっているのかな?」

 

「あはは。そうだ・・・そうですわよ。」

 

シオンが代弁して答える。

 

「ふむ。」

 

男は考える。

 

今の状況であればこちら側が勝っている。

ディーラーがこの後のヒットでAを引けば同点、引き分けとなり、2ならブラックジャックでこちらの負け、3以上ならバーストでこちらの勝ちは確定だ。

ただしアップカードからAは2枚使われているし、2も4枚のみ、85%以上の確率でこちらの勝ちだが・・・

 

男は考える。

クオンのシューターを凝視する。

 

黄金でできているからだろうか・・・

 

先ほどカードを取り出した際に、少しだけ次のカードが飛び出していた。

 

輝く黄金、鏡のように覗き込めば自分の顔も映るほどに研磨された黄金。

飛び出したカードの上部が、その黄金のテーブルに映っているのだ!!

 

数字は・・・・2!!!!

 

ここで自分がヒットをせずにステイしていたら、相手は2を引きブラックジャックで負けていた。

そして自分が引いてもブラックジャック!!

 

勝った・・・・・

 

思わず馬鹿が・・・と心の中で失笑。

 

男は勝ちを確信していた。

 

そう、些細なことでも注意深く観察し、積み上げること、それが勝利への鉄則!

 

男は目に捉えた情報を元に勝ちを掴み取りにいく。

 

「ヒット!!」

 

だが、目に捉えれなかったことまでは注意が向かなかった。

 

「フフフ。」

「あはは。」

 

映っていないものに気付けてなかった。

気づいていたとしても最早手遅れであったが。

 

「!!!!!!!!!!」

 

配られたカードは、3であった。

 

「ミスター・ポール・・・バーストです。残念、後もう一つ数が少なかったらブラックジャックでしたわね。危ないところでした。」

 

男は心底腹が立っていた。

確かに黄金に反射して見えていたカードの数字は2。

 

次の次のカードを取るセカンドディールをしたのか??

それならば先ほどのカードはさらにシューターより飛び出すはず。

 

再び凝視すると、クオンのカードは、またシューターより少し飛び出しており、黄金に反射した先ほどのカードとは違っており、そのカードはAであった。

 

連れの女がそれをヒットで手役に加えれば、9とAとAでブラックジャック!

今度こそ見間違えではない!そして、絶対にセカンドディールやカードのすり替えもさせないよう、クオンの一挙一動に集中する。

 

連れの女にヒットするように促す。

 

「ヒット!!」

 

クオンが待ってましたと言わんばかりにシューターに手を伸ばす。

 

直感で寒気を感じた。

 

「ま・・・!!」

 

「待ちません。」

 

そうしてカードが配られる。

 

配られたカードは4。

 

「ミスター・サラ・・・バーストです。」

 

負けた・・・・

 

「イカサマだ!!!!!!」

 

吠える!!

 

確かに黄金に反射したカードの絵柄は確認した!自分の時は間違いなく2だったはずなのに配られたカードは3。連れの女の時も間違いなくカードの図柄はA。

二度目はさらに注意深く観察したので間違いない!

配る時に次のカードをすり替えたとしか思えない!

 

「ミスター・ポール、イカサマとは??」

 

「セカンドディールでカードをぶっこぬいたんだろ!!」

 

「あはは、お兄さん何を根拠に言ってるの?」

 

「根拠って!俺はみ・・・!!」

 

クオンとシオンの反論に対しての反論が喉で止まる。

黄金の机に反射したカードを見ていたなど誰が言えるだろうか??

 

「ミスターどうされたんですか?」

クオンがこちらの顔を覗きこみながらフフフと挑発的な笑みを浮かべる。

 

「あはは、何か変なものでも見ちゃったのかな?」

シオンが小馬鹿にするように笑いながらこちらの顔を覗き込む。

 

「「ヒットしなければ勝てたのに。」」

 

「煩い!!!こんな店二度と来るか!!!!!」

 

男は激しくテーブルに両手を叩きつけると、スーツケースをそのままに席を離れる。

イカサマを使った証拠もない。

次のカードを見ていたなんてことも言えない。

 

カジノで今まで感じたことのないほどの腹立たしさを感じていた。

ブロンドの女の手を引っ張り、後方で待機していた部下に行くぞと目線を向ける。

 

出口である黄金の扉に手をかけると、そこには怒りとストレスで歪んだ自身の顔が浮かんでいた。

 

くそ!なんで楽しみに来たカジノでこんな不愉快な思いをしなければならないんだ・・・・

 

今日はホテルに帰って、この女で鬱憤を晴らそう。

 

そう思いながら、扉の取っ手を回す。

 

ガチャリ。

 

ガチャ、ガチャ。

 

開かない扉を前に、男の怒りが最大に高まる。

 

「どういうことだ!!!???」

 

クオンとシオンは、不気味な笑いを零しながら、開かないドアを握る男を嘲笑する。

 

「フフフ、ミスター。何処に行かれるのですか??」

「あはは、賭けの清算がまだだよお兄さん。」

 

段々とその笑い声は大きくなっていき、VIPルームを包み込み始める。

 

「その気持ち悪い笑いを止めろ!!金なら持ってきた分はそのアタッシュケースで全てだ!!!約束通り貴様らにくれてやる!!!!」

 

怒り狂う男の様子にますます卑下た笑いを響かせながら双子は笑う。

 

「フフフフ、お金はこれで大丈夫です。ただ、まだ未清算のものがあるではないですかミスター?」

「あははは、そうだよお兄さん。確かにゲーム前に確認したよ?」

「「ミスターが本日お持ち頂きましたもの全てを一回のブラックジャックに賭けて頂きます。」」

 

男は、不気味な笑みの女共が何を言ってるか分からなかった。

 

ただし不可解な事に今更になって気付く。

 

勝つ為に黄金に反射するカードの絵柄を凝視していた瞳。

見えてるものは、ちゃんと視えていた。

見えてないものを、視えていなかった。

 

僅かにシューターからはみ出したカードの絵柄すら写す程に研磨された黄金。

 

テーブルも、床も、天井も、壁も黄金で包まれた部屋。

 

そこに写るのはカードだけではない、自分の顔や姿も写していた。

 

なら、何故目の前の女共は写らない!?

カードを写したテーブルにも、自分の顔を写した壁にも、360度部屋を包む黄金の何処にも、二人の姉妹の姿は写っていなかった!!

 

男の顔が徐々に青ざめていく・・・

 

こういう時の自分の感は当たるのだ・・・

 

この女共は・・・・

 

「まだ、この部屋に持ち込まれたモノがあるではないですかミスター?」

「そうだよ。3体もあるよお兄さん。」

 

「「貴方達の身体をちょうだい」」

 

瞬間、目の前の姉妹の瞳が紅く光り、一瞬閉じた瞳を開いた時には世界は一変していた。

 

姉妹の服はディーラーのそれとは別物になっていた。

頭より生えるコウモリのような羽、透き通る肌を所々に露出させた挑発的な黒とグレーのドレス。

腰周りに生える黒と白の羽根。

そして人間のそれとは思えない怪しげな光を放つ赤い瞳。

 

そして、何故今まで見えなかったのか?

 

先ほどまでゲームをしていたテーブル、椅子、シャンパングラス、壁、黄金の部屋の各所にこびりついている血痕の跡と肉片。

 

男は確信した。

 

化物。

 

 

「!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

ボディガードで連れてきた部下が最初に叫び声を上げ、出口の扉を力いっぱい蹴りつけ始める。

クオンは呆れた顔で右手を自身の後方の壁にそえると、己が力を込める。

部下の男は、目の前の扉から生えた黄金の顎により首から上を噛み千切られて息絶える。

 

連れの女は、声にもならない声を上げながらパニックを起こし始めたところを、壁より生えた黄金の蛇により捕らえられる。

いつの間に移動したのか、恐怖に歪むブロンドの女の顔をシオンが眼前でウットリと眺めていた。

 

自分の周りにも部下の首を引きちぎった黄金の蛇がまとわりついてくる。

 

クオンは右手を壁にそえたまま、ゆっくりとこちらへと近づいてくる。

 

男は襲い来る恐怖に耐えながら状況を判断する。

 

退路は完全に消えた。

隣にいる女は、黄金の蛇に捉えられシオンが味見をするようにその躰を舐めまわしている。

女の顔は先ほどまでの恐怖が霧散し、涎を垂れ流しながらこれ以上ないという程の恍惚を浮かべている。

その視線は、シオンの怪しげな赤い瞳に注がれていた。

 

目の前にはもう手の届く距離までクオンが近づいて来ていた。

 

男は声を振り絞り問いかける。

 

「お前達は・・・なんなんだ・・・・?」

 

クオンはクスっと笑うと、白い牙をその口元より晒し、答える。

 

「「久遠に死を生み、その怨嗟を喰らう者。」」

 

・・・・・・・・・・・

 

黄金の部屋に静寂が訪れる。

 

先ほどまでの喧騒は彼方へ。

 

今この場にいるのは二匹の人外。

 

「ぷはぁっ!」

 

シオンが好物のドリンクを飲み干し、恍惚の顔を上げる。

その口元には赫い飲み残しが垂れ、彼女の服を赤く染め上げている。

 

「シオン・・・もう少し上品にお食べなさいって言ってるでしょう。」

 

クオンは、黄金のテーブルの上で食べ残しを撒き散らせながら踊るシオンに注意をし、自分も椅子に座り食事を続ける。

 

「はぁぁ・・・だってさぁ、この子、凄いシオンのタイプ。最後の顔見たでしょ?あんな綺麗な顔をくっちゃくちゃに歪ませて・・・あぁ!!可愛いイィイなぁぁ!!!」

 

シオンは、もうドリンクの一滴も出ない好物の干からびた皮と骨を咀嚼し始める。

 

そんな様子を見ながら、クオンは呆れながらもクスリっと笑う。

 

「その気持ちは解りますけどね。この殿方も、自分がもう助からないんだと解った時の恐怖と絶望と諦めと、ひとさじの意地がブレンドされた末期の顔。こうして反芻していると、また一段と風味が増して堪らないわ。」

 

クオンは最高級の一品を大事そうに抱えながら、その首筋から溢れ出す芳醇なワインを思わせる赫いドリンクを堪能する。

 

シオンはもうお腹がいっぱいになったのか、ふぅっと一息つくとテーブルの上を猫のように這いずりながら、そんなクオンの側へと近づいていく。

 

彼女が先ほどまで持っていた食事は散乱した食べ残し以外、全て彼女の中へと収まり、その存在は完全にこの世から消えていた。

 

「クオン、よくそんなの食べれるね~。男の血って苦いし、肉も硬いし、シオンはやっぱり女の子の方がいいなぁ~。それに食べる前は気持ち良くさせてあげた方がさらに筋肉が弛緩して、甘みも増すのに。」

 

「分かってないわねシオン。死と言う名の究極の絶望に染め上げられた時に漏れ出す脳内麻薬が血に最高の旨味を引き出すの。それにあなたの場合、幻覚で惑わせてるだけでしょ?そんな紛いものの感情からは、紛いものの味しか生まれないの。そんなのだから、殿方の血の深みが解らないのよ。」

 

「シオンは解らなくていいや~。かわいい女の子がいれば!!あぁ、次はどんな子がいいかなぁぁぁ!!!はぁぁぁ・・・・」

 

「ふぅ・・・。まぁあなたも、あと100年もすればこの味が解るようになるわ。」

 

シオンは次なる美味を想像しながら、赤く装飾された黄金のテーブルの上で歓喜の踊りを踊る。

クオンはタイプの男の末期の顔を覗きながら、優雅にその命を啜る。

 

死遠・アジャー二

久怨・アジャー二

 

この双子の姉妹は半世紀以上も前にヨーロッパのとある貴族の家庭に生まれた。

幼少期より音楽、絵画、馬術、舞踏、学問、あらゆる分野にて大人の専門家を圧倒する才覚を発揮したその姉妹は、神童として崇められ、国王の目にも止まり、国中の者が彼女達との交流を望んだ。

彼女達はそんな人々に笑顔を向けながら、心の中でいつも思っていた。

 

この生き物はなんなのだろう?

 

生物学的には同じ『人』と分類されるのは知っている。

 

だけどもいくら大勢の個体と出会っても、それら低能なモノ達が自分達と同じ生命体とは考えられなかった。

 

なので姉妹は自分達は『人』ではないのだろうと判断する。

 

そうして研究を始めたのが魔道、錬金術であった。

 

その末に双子の姉妹が成し遂げたのが悪魔の召喚であった。

 

城の地下に作った研究所兼、儀式の間に顕れたモノは告げた。

 

「願いを叶えよう。代償として汝達の魂に呪いを与えよう。」

 

姉妹は願った。

 

「自分達を本来の姿へ。」

 

悪魔は姉妹の願いを聞き入れると、人という枠組みから姉妹を外し、彼女らの稀代な才能と、自分達にできないことはないという確信を基に双子の姉妹を相応しいい存在へと変えた。

 

吸血鬼、ドラキュリア、不死の王。

 

死ぬことも老いることもなく、どんなものにも姿を変え、一騎当千の怪力、念動力や幻覚術などの超常の力を携えたモノへと。

 

そしてその魂に呪いを授けた。

 

元同種であった人間を食し続けなければならないという呪いを。

 

「久遠に死を生み、その怨嗟に喰われるがよい。」

 

皮肉を言う悪魔を笑い飛ばすと、悪魔の目の前で姉妹は両親の生き血を吸い尽くして見せた。

 

次に、グレーの瞳を持つ双子の姉は、城の壁に手をあてると、城を構成する材質を念道力で操り街全体を覆う壁を作り上げる。

碧眼の瞳を持つ双子の妹は、瞳を赤く光らせると街中の人々に幻覚をかけた。

 

逃げ場もなく、幻覚により案山子のように立ち尽くす人々を玩具のように引き千切り、吸い付くし、噛み殺した。

 

そうして一夜にして出来上がった大きな壁の内に数千の死の山を作りあげると、瀕死の者が口にする怨みの言葉の中、双子の姉妹は死の山の頂で笑い続ける。

 

親を殺し、一夜にして数え切れない程の元同族を喰らい、笑い続ける双子を満足気に見て、悪魔は別の次元へと消え去った。

 

双子には、魂にかけられた同族殺しの呪いなど呪い至り得なかった。

 

もとよりその双子は人の身でありながら、人でない外道。

 

生物学上も人外となった姉妹は数百年にわたり、様々な国を渡り歩き、各地に死の山を築いて回った。

 

残された者は怨みをその胸に双子を殺さんと追い続ける。

追ってきた者をまた喰い殺す。

新たな怨みが新たな贄を運んでくる。

 

無限に思える時を殺し、怨みを喰らい、生きた数百年。

圧倒的なその力と生命力に、各国の長は双子に対して畏怖と敬意を抱き、平伏した。

 

彼女達のあらゆる行為を黙認し、あらゆる法的措置を禁じ、あらゆる報復や攻撃を禁止し、定期的に生贄を捧げると。

 

各国の長が集まった会議の間の虚空より顕れた双子の姉妹は、その提案を受け入れると実質的に世界の支配者となった。

 

自分達を見て恐れ慄く国の長達を笑い飛ばす双子の姉妹に、長達はその名を問うた。

 

双子はとうに忘れた自分達の名の代わりに、あの日、悪魔が皮肉で言った言葉を皮肉り名乗る。

 

 

「「久遠に死を生み、その怨嗟に喰らう者」」

 

「久怨」「死遠」

 

 

以後、世界中の加護のもと、あらゆる国の贅を集約させた生贄の祭壇に招かれ、貢がれる贄を楽しんだ。

 

今宵食らった男達も現在滞在中の国より与えられた贄であった。

 

食事を終えた姉妹は黄金の天井を見上げる。

 

そして一瞬その顔に陰りを見せる。

 

「ねぇ、クオン・・・まだ行ったことない国ってあったっけ?」

「全部回って、今は10週目かしらね。」

 

「そっかぁ・・・・ねぇクオン・・・・?」

「なぁに?シオン。」

 

シオンは答えなかった。

 

双子は解っていたからだ。

お互いの胸中を。

 

かけられた同族喰らいの呪いや、怨嗟の輪は呪い至り得なかった。

だが、唯一彼女達を苦しめる呪いがあった。

 

久遠の時。

 

彼女達は、この世界に、自分達の永遠に飽きていたのだ。

 

「「体験したこともない、面白いことを。」」

 

そうお互いを見つめ合いながら呟く。

 

瞬間、黄金の天井が、黄金の輝きのそれとは違う、純白の光を放つ。

 

 

「「その願い!!!承認しよう!!!!」」

 

神々しい光が黄金の天井に開いた輪より降り注ぐ。

 

その光は久怨と死遠を包みこむと、次の瞬間には何事もなかったように消えていた。

 

あとに残されたのは黄金の部屋と散乱した死の痕のみ。

 

「・・・・・・・!?」

 

双子が目を見開くと、そこは、四角錐のテーブルを中心に、金の砂塵が辺りを天の川のように縦横無尽に流れ、虹色に煌めくシャボン玉が下から上へと登っていく。

見上げた先には空はなく、ただ神々しい光だけが存在し、この場にあるものに降り注ぎ照らしていた。

 

 

「「レディース・アンド・ジェントルメン!!」」


fin.
written by 鷹人