異世界カジノ

「神の遊戯」

ある病棟にて繰り広げられる、死神の異名を持つ少年と、死を懇願する患者の悲哀劇。
とある田舎町にて繰り広げられる、死のスパイラルに魅入られた少女の生死観。
ある街に広がる都市伝説に巻き込まれ、自分を殺す宿命を帯びた男女の殺人劇。
ある国に蔓延する魔女を切り裂く女と男の復讐劇。
とある世界で不死となった人外の姉妹の人生ならぬ人外観。
ある国々で目覚めた超常の力を持つ魔法使い達の、願いをかけた闘争劇。
ある街で起こる、異なる環境で育った殺人者達の友愛劇・・・・

つらつらと書き記しながら、筆を止める。

「面倒だから、とりあえず末から4つで・・・」

宙に浮く、青く丸い天体のような球状の何かに寝転びながら、その女神は目の前に広がる7つの本の内、4つをセレクトする。
セレクトされた本はいずれも百科辞典ほどの厚さにタイトルは書いておらず、表紙の色も同じであった。
女神の眼前に広がる4つの本。

完成まで書き綴られていたその中より目的のページが開かれると、女神は手に持った筆で綴られた文字の上から大きく新たな文字を綴る。

それは彼女にしか解らない記号。
彼女が創った世界を構成する元素にして文字。
女神は彼女自身が創り出した世界を本を媒介にして紡ぎ、彼女が創ったエンドロールへとストーリーを進めていく。

彼女が新たに綴った文字は人の言語にするとしたら『召喚』。

自らが創った世界の内、4つの世界の中に登場する生物の中で最も彼女が気に入っている種族、人間。
その中でも類稀なる、退屈させない登場人物をチョイスする。

彼等の物語は、彼女が筆で加筆した瞬間に一時停止をする。
そして召喚される。

神の世界へと。


そこには重力という概念はなく、金の砂塵が辺りを天の川のように縦横無尽に流れ、虹色に煌めくシャボン玉が下から上へと登っていく。
見上げた先には空はなく、ただ神々しい光だけが存在し、この場にあるものに降り注ぎ照らしていた。
様々な伝承で出てくる神々を思わせる造形をした石像がその光を浴びながら、金の川が取り囲む中心、一つの祭壇を向いて浮遊している。


女神。

赤と青のオッドアイに、頭部より生えた白い角に、色鮮やかな花と葉でできたカチューシャ。
全身を白の装束でまとい、手に持つ杖の先端には青く輝く地球のような球体が浮かんでいる。

彼女の名はOz。
神域に招かれた26神がうちの一人。
14神Nzの創った世界の一つを完膚なきまでにめちゃくちゃにした彼女は15番目の神としてOzの名と共に神域に招かれた。

神は世界を創り、世界を紡ぎ、完結させる。
その中で稀に、創り手である神のストーリーから逸脱し、そのストーリーを改変してしまうほどのイレギュラー分子が発生する。
神はそうしたイレギュラーを讃え、登場人物から創り手の側、神域へと招く。

そうして、次の神に新たな世界を創らせ、そのストーリーを紡がせるのだ。

神々にとって世界の創造と完結は、唯一の娯楽なのだ。
解りやすく例えるのならば映画。

退屈を持て余した神域の神々達は、創り上げた世界で起こる物語を鑑賞し、時に干渉し、楽しむ。
製作者であって観覧者。

今はOzが他の神々の退屈を紛らわせる為に、いくつかの世界を創り、その物語を紡いでいた。

だが、彼女は本当にこりごりするくらいに寝転がった身体を起こせないくらいに面倒くさくてたまらなかった。

7つもの世界を同時に創作し、運用する。
人の身では想像もできないほどの創造。

神になり、そのスペックは人の理を超越し、その作業自体はこなせるが途方もなく時間のかかる世界の運用に彼女は飽き飽きしていた。

なので提案した。

彼女が紡いでいる、それぞれの世界にて発生したイレギュラー分子をこの神域に招き、ゲームをさせようと。

彼女の世界を鑑賞していた神々は面白そうだとOKし、彼女の案にのり、神域に一つの空間を創り出した。

それがこの黄金と虹色に輝く空間。

宙に浮かぶ、正四角錐のテーブルとそれぞれの辺二つづつ浮く四角錐の椅子。
プレイヤーは全部で8名。

Ozは自分がまだ人の身だった頃に娯楽で嗜んでいたカジノゲームを元に、新たなゲームを創りだし、4つの別々の世界より召喚した者達を競わせるこの遊戯場を。

「「神!」」

彼女の両隣に、黒と赤の装束に身を包んだ瓜ふたつの少女が現れる。
Ozがこのゲームの為に生み出した進行役。

黒の装束に桃色の髪をした少女、黒華。
赤の装束に灰色の髪をした少女、赤華。

彼女達の装束はOzが創り出した世界の一つ、中国と呼ばれる国の民族衣装を模したものであった。

「「お客様です!」」

お辞儀をする様に、黒華と赤華が手をかざした先の虚空より黒い光とともに英国紳士の様な黒いハットと杖を持った男が現れた。
その首には途中で切れている鎖が巻かれている。

杖をカツンッ、カツンッ、とわざとらしくダンスする様につつきながらOzへと近づいていく。

「ヤァヤァ、順調かい??レディOz?オォ!ここが君の遊戯場かい??良い場所をもらったじゃないか??」

「・・・・・・・」

Ozはその客人に気づかないかの様に目の前の4冊の本に集中する。

「話をつけたんだって??もし今回の儀式が上に好評だったら世界管理を400年ほど休息するって。」

4冊の本より純白の光が輝き出す。

「・・・・・・・」

男はOzが何かボソボソ呟いているのに気づく。

「そんなに世界を弄るのはつまらないかい??私はストーリーライターは好きだけどね。」

「・・・ルサい」

「ん?」

「ウルサイと言っているワイズくん。君は何のためにここに来た?君が今ここにいる理由は?私の遊戯を観覧しに来たのなら観覧席に行けばいい。世界の管理は好きだって??ならば君が変わってくれるのか?そのために来てくれたというのなら私は心から君のことを歓迎するよワイズくん。これから行う面倒な遊戯で上に媚びを売らなくて済むし、ストーリーライター志望の君にもメリットがあって一石二鳥だ!素晴らしいじゃないか?そうしよう!おいおい何をボーッと突っ立ているんだ?さぁ早く私の代わりにこれから始まる茶番劇を取り仕切ってくれないか???」

ワイズと呼ばれた男は、Ozが振り向きながら連呼した言葉の数々の途中で黒い光となって空間から消え去る。

後にはOzと二人の従者が残る。

4冊の本の光は輝きを増し、そのページが高速でめくれ始める。

「「Oz様。そろそろお時間です」」

「・・・・・黒華、赤華。始めて。」

Ozの開始の言葉と共に、姉妹は4冊の本を両手に取ると、そのままOzのいる青い球体から飛び降りながら、4つの世界より8人のイレギュラーを喚び起こす。

本より放たれた純白の光は8つへと分かれ、遥か下、正四角錐の祭壇へと降り注ぐ。
それらは祭壇の4辺に浮遊するプレイヤー席へと降り注ぎ、実体化していく。

実体化した彼等は一様に不可解な表情をすると天を仰いだ。
その光景を遥か上空から見下ろしながらOzは新しく生み出した一冊の本を開く。

そこに連なる登場人物は揃った。
最初の一文は何にしようか?

まだ人の身だった頃に嗜んだカジノゲーム。
その種目の一つをベースに考案した遊戯。
4つの世界より召喚した神となる資質を持つプレイヤー達。

そんな彼等にはこれから自分のために踊ってもらう。
自分はこの黄金と虹色に煌めくカジノのオーナー。

筆を持ち、その新たな本に一文を加える。

「さぁ、始めよう。異世界カジノを。」


fin.
written by 鷹人

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